「地獄のリバウンドを乗り越えて」 國澤 克子 60歳

 私が大学病院(高名なK大学国立病院)で聞いた湿疹の名称は"貨幣状湿疹"(現代の内科の病名は病理学や免疫学によって確定されていますが、皮膚科の病気の診断名は極めて曖昧であり病気の本質から離れすぎている病名が多すぎると感じています。例えば、形状が四角の湿疹や三角の湿疹であればそれぞれ四角状湿疹や三角状湿疹と名前を付けて満足している面があります。この患者さんの病気も本当はIgE抗体が高くアトピーだったわけです。しかも皮膚科で取り扱われている病気の多くが、皮膚の細胞自身に原発した病気は少なく、体の免疫反応の波及の結果見られる随伴症状であることがほとんどです。従って皮膚科の薬はほとんどがステロイドであります。)とのことでステロイド剤入りの塗り薬等頂き、以来3年余り、それ以前にも2・3の病院を回っていましたので使用期間は6・7年になると思います。(さらに皮膚科の治療も病気の本質である原因を除去するのではなくて、ほとんどの病気に対して一時的に症状をとるために、ステロイド剤が闇雲に用いられていると感じています。)一時的には症状は治ってもまた出るの繰り返しをしているうちに範囲が大きくなり、体全体に広がってきました。困りきっているときにある方から漢方の話を耳にし、随分と迷い、考えた末に、相談のつもりで松本医院に来たのでした。先生は「大丈夫、治ります。」と言われ、治療することになったのが平成7年5月のことです。以来1年あまりが過ぎ、まだ終息宣言は出ていませんが(もうすでに終息宣言は出しました。つまり、アトピーが治るということは見かけの症状が良くなったから治ったという訳ではありません。自然にIgE抗体が作れなくなったことを確認する必要があります。)、一応普通の体に回復して元気な日々を送っています。振り返ってみて、その間何も記録していないので、話が前後するかもしれませんが思い出すままに書いてみました。

 平成7年5月6日、漢方薬に変えたこの日からリバウンド現象は起こり、体内から噴き出るように湿疹が体全体に広がりだし、異様な状態になってしまいました。この時は、漢方薬に変えたことをとても不安に思いました。(以前のままだと、何とか普通の体裁は保っていられたのに・・・) でももう仕方がありません。この上は、1日も早く治さなければとは思いはしたものの、一度出たらいくら焦っても時期が来ないとそう簡単に治るものではありませんでした。それから半年間は、体の中に溜まっていた毒をどんどん吐き出し続け(毒という言い方は或る意味では正しいと言えます。というのもアトピーは小便や大便などで排出しきれなかった化学物質を、免疫を用いて皮膚を通じて排泄するものであるからです。それと同時に、ステロイドで変質した皮膚を繰り返し剥がし尽くし、新しい正常な皮膚を作る必要があります。これがまた大変な仕事なのです。)、体全体の皮膚が死人状態になって、夏だというのに寒くて・・・。肌はザラザラでこぼこ、その上滲出液でいつも湿っぽく、加えて、浮腫のために体中がパンパンに張り、体重は52kgから最高70kgに増え(このように20kg近くまで体重がリバウンドに際して増加するメカニズムは次のようであります。ステロイドを止めますと体全体で炎症が起こり始め、血管から或いはリンパ管から大量の炎症細胞をはじめ体液や蛋白が組織間に漏れ出ていきます。このとき女性ホルモンをたくさん持っている女性の皮膚は破れにくくて、組織間にいつまでも体液が残るとむくみとなり体重が増えます。逆に男性の場合は、皮膚は破れやすく組織間に体液が溜まりにくくて体外へ出てしまうので体重が逆に20kg減ることも経験したことがあります。)、入浴の時には心臓がドクドクする状態でした。(これは循環血流量が少なくなってしまったため心臓に負担が掛かったわけです。こんな時はお風呂は控えたほうが楽です。)家事も一切することができず自分の身を始末するのが精一杯でした。先生からは、感染に十分に気をつけるように注意され、消毒は念入りにと思いつも、私は全身でしたのでこれがまた大変な仕事でした。タンパク質(特に魚・赤身の肉)は朝からでもたくさん食べるように言われ、本当に一生懸命に食べました。唯一この状態で一番の心配は、浮腫のために内蔵、特に尿が1日300cc前後の日が数日続きましたので腎臓への影響でした。しかし松本先生の言われるように勿論腎臓への影響はありませんでした。(循環血流量が減っているのみならず、皮膚から汗が気がつかないままに出てしまっているのでますます尿量が減ります。しかし決して腎臓が悪くなったためではありません。勿論どんどん水分の補給をしてもらわなければなりません。いまだかつてアトピーの治療で腎臓が悪くなった人は誰もいません。)また、滲出液のために血液のタンパク値が下がる一方で、魚・肉その他を充分食べているつもりでも及ばずタンパク剤(市販されているプロテイン)も飲用しました。夜は痒みと滲出液で体がジトジトしてほとんど眠れず、夜が来るのが恐ろしい気さえしました。とにかく、言葉では表現できないほどの苦しみと精神的不安でした。幸い私には2ヶ月早く治療されている方がおられたため、その方の回復の様子を目標に頑張ることができました。(このように患者さんが患者さんを励ましてくれることが極めて心強い力となります。このような手記を書いてもらっているのも、私自身の理論を実践してくれた患者さんの貴重な経験から他の患者さんがかけがえのないアドバイスを得ることができ、最後まで戦い抜き勝利を勝ち取らせるためです。)

  また、病院ではいつも「おはようございます。」「お大事に!」と優しい笑顔を下さいますので、ひどい格好をして劣等感の塊になっている私には大変励みになり救われる思いでした。9月も終わりになって、体重も少しずつ減るようになりましたが、肌の状態は相変わらずで、ただひたすら煎薬を飲み薬湯に入り、湧き出るリンパ液の始末に追われ、本当にいろいろな方法を考えました。やがて傷が少しずつ乾燥するようになり、体重の減少とともに浮腫も日ごとに消え、半信半疑だった私の気持ちが落ち着いてきたのは11月も終わり頃だったでしょうか。その後は順調に回復し、1年経過した頃は肌は黒いながら、手触りはサラサラと感触がまるで違うようになりました。体の中の毒がすっかりぬけたように・・・。(正常な皮膚が戻るのにどれだけ時間がかかるかは私の医院に来るまでにどれだけステロイドや抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤を投与されたかによります。人間の記憶は曖昧であり、さらに医者の出した薬の内容についても患者さんは知らないわけですから、起こりうるリバウンドの程度は患者さん自身の体が知っているだけで私が予言することは出来ません。)

 この1年は地獄の底にいるような苦しみでしたがそれを克服できたのは、初めの3ヶ月は先生が毎日お電話をくださり、状態をチェックしていろいろと指示してくださったことで随分と力付けられました。また、家族が心から優しく見守ってくれ、娘は1歳半の子供を抱えながら、主人は仕事の傍ら、買い物や家事を一生懸命に世話してくれました。そして孫が「おばあちゃん」と優しく声を掛けてくれるのですが、私は孫に触れることができないので早く元気になってこの子を抱きたい一心もありました。(このように激しいリバウンドは患者さんが一人ででは背負いきれないことがあります。この時にこそ、家族の有り難味が分かるときです。)

 今、1年5ヶ月を経過して皮膚の浅黒さは残っているものの、体重は元に戻り、以前にも増して肌触りはスベスベと優しく、全身の細胞や体液がすっかり入れ替わった感じがして、この夏を元気に過ごせたことを心から喜んでいます。そして、以前(漢方を始める前)の苦しみから解放されたことは何より幸せです。そして、これから先も苦しみ続けなければならなかったことを思う時、先人の大きな知恵と知識に敬意を表し、良き漢方の先生に出会えたことを感謝しています。

 先生はいつも「これは闘いですかね?」と言っておられましたが、まさに「闘病」でした。この苦境を乗り越えた今、ペンを走らせながら、とても感慨深いものがあります。(いかなる患者さんもステロイドの影響を完全に抜くことは可能であります。12年間ステロイドを抜くことに邁進してきましたけれども、取り返しのつかない経験をしたことは一度もありません。途中で患者さんが挫折しない限りは必ず元の体に戻ります。最後にはIgE抗体は正常に戻ります。この患者さん自身は完治されたのですが、その後来られた娘さんのアトピーの治療もほとんど終わっています。)

<上の表の説明>

 この方は正常値の中でIgE抗体が動いています。ということは元来アレルギーの度合いというのはあまり問題でもなかったにもかかわらず、ステロイドを用いればすぐに軽度な湿疹も良くなるので、その怖さも知らずに使いすぎた結果、このように苦しまなければならなかったわけです。つまり、ステロイドは塗るだけでステロイド皮膚症という様々な皮膚の症状を起こす病気を作り出すことが出来るわけです。まさに薬害病と言えます。患者さんの話しによれば2週間で10本以上のステロイド軟膏を使い続けたようです。